政治イベント分析(2024年Aセメスター)
2024-10-21
Chapter 1 この授業について
担当教員の自己紹介
和田 毅(わだ たけし)
- 東京大学
- 大学院 :総合文化研究科 地域文化研究専攻 & グローバル共生プログラム(GHP)
- 後期課程:教養学部教養学科地域文化研究分科ラテンアメリカ研究コース
- 前期課程:教養学部社会・社会思想史部会
- 研究機構:グローバル地域研究機構ラテンアメリカ研究センター(LAINAC)
- 専門と研究
- 社会学・ラテンアメリカ地域研究
- メキシコの抗議行動の歴史
- 政治イベント分析
講義題目
イベント分析法(Event Analysis):理論と実践
駒場19号館 1922教室
初回授業Zoom URL
授業の目標、概要
イベント分析法とは、社会の諸事象や諸事件を「イベント(event)」として認識し、それらに関する情報を広く収集して「イベント・データ(event
data)」を構築し、多様なアプローチでそのデータを分析する研究方法である。政治社会学の分野でもっとも発達し、今日では標準化した研究方法であるが、政治学や国際関係論等の学術分野でも頻繁に採用されている。どのような社会の諸事象や諸事件を「イベント」として扱うかによって、その研究は一見大きく異なる分野に属するもののように思えるかもしれない。紛争や内戦の研究分野では、市民や政府の間の武力衝突をイベントとするだろうし、国際紛争や国際協調の研究分野では、国家間の交流や衝突をイベントとして情報収集するだろう。また、イベント分析法は、必ずしも政治的な事象や事件ばかりを対象にしているわけではない。災害といった自然現象や人為的事象、大学卒業・就職・結婚・出産・離婚等の人生における諸事件を「イベント」として研究することも可能である。担当教員は、民衆の抗議行動の研究を専門としているので、デモ行進や座り込み等の抗議行動を「イベント」としている。このため、授業で用いる例や課題には抗議行動がイベントとして多く用いられる予定であるが、他のイベントにも応用可能な研究方法であることは予め断っておく。
この授業では、イベント分析法に関する基礎的な理論や方法論を、抗議行動や社会運動研究を主な用例として学んでいく。この授業の究極的な目標は、日本の社会科学においてもっとイベント分析法が積極的に活用されるようになることである。そのためには、単にイベント分析法について言及した理論的・方法論的な著作を読むだけでは不十分である。この授業の終了後に、履修生たちがすぐに自らの研究テーマに則したイベント分析法を実行できるようになるために、そのスキル向上の訓練も同時におこなうことがこの授業の特徴である。具体的には、統計ソフトRを用いて、実際のイベント・データを分析する作業を組み込んでいる。統計分析によっては、RよりもStata等のほうが簡単にできる場合もあるので、その際には適切なソフトを導入する。当然のことながら、授業時間だけではスキルの習熟は難しいので、課題を通じて学べるようにする。
授業計画
この授業は【授業計画】に沿って進める予定であるが、変更する場合もある。初めて開講する授業のため、内容や課題の分量など適宜柔軟に調整しながら進めていくことになる。また、学生の政治社会学や社会運動研究など関連する諸分野に関する基礎的知識や統計やプログラミング等を含むスキルレベルによっても計画を変更する必要が生じる可能性がある。
授業の方法
1)授業前.各週のテーマによっては、イベント分析に関する主な論文や書籍を講読する。その場合、学生は授業開始までにそれらの課題論文(Readings)を読んでくることが求められる。
2)授業中.基本的には、各週のテーマや課題に関するテキストを配布し、それに基づいて授業を進めていく予定である。また、受講生にスキルを習得させることも主要な目的のひとつであることから、学生それぞれがコンピュータ上でデータを扱い計算やグラフを作成する方式を採用する予定である。
3)授業後.各週のテーマについて課題を出す場合もある。課題は学生がイベント分析法を習得するために用意されるものである。授業後に各自で課題を解き、翌週の授業前に提出することが求められる予定である。
成績評価方法
成績評価は、出欠、議論への貢献、課題提出、期末ペーパー等を総合的に勘案して行う予定である。詳細は初回の授業で説明する1。
履修上の注意・準備学習等(予習、復習)
各週のテーマに応じて、事前のリーディングや授業後の課題が課される予定である。Rや統計や抗議行動・社会運動研究の知識を前提とはしていないが、とくにRや統計を学んだことのない学生は、自ら基礎的な部分を補っていく努力をすることが大切である。詳細は初回の授業で説明する。初回はオンラインで開講する。
各回の予定
第一部:イントロダクション
序章 :この授業について
第一章:政治イベント分析の世界
第二章:統計ソフトRを用いた政治イベント分析
第二部:イベント・データ構築
第三章:情報源と政治イベント分析
第四章:事例・観測値と単位・ユニット
第五章:データベースの構造
第六章:コード化・カテゴリ化
第三部:イベント・データ分析
第七章:社会空間分析
第八章:マッピング
第九章:時系列分析
第十章:クラスター分析
第十一章:ネットワーク分析
第十二章:マルチレベル分析
第四部:政治イベント分析の未来
第十三章:ビッグデータ・アプローチ
第十四章:生成AIの活用
第十五章:生成AIの活用と課題
さらなる目標とお願い
既述のように、政治イベント分析は、ひとつの有力な社会科学的な研究方法として認識されている。しかし、学生や若手研究者みずからがイベント・データを作ることは未だハードルが高く、一般的な手法とまでは言い難い。イベント分析を用いたとしても、既存のイベント・データを探してきて、それを活用するくらいだろう。ハードルが高い理由は、(1)新聞記事などの情報を集めるのに時間とコストがかかること、(2)収集した情報を分析することができるようにデータ処理をするための時間とコストがかかること、(3)データ処理した情報を分析するためには基礎レベル以上の統計分析の能力が必要なことなどが考えられる。この授業は、イベント分析を構成する3つの段階(データ収集・データ処理・データ分析)に関する課題やスキルを学生に伝達することによって、このようなハードルをどのように克服し、次世代のイベント分析を生み出していけるのかを考えていくことが重要な狙いである。
さらに、本授業の教材を作成するにあたり、将来的にイベント分析に関する書籍を出版することを視野に進めていきたい。それは、そのような方法論に主眼を置いた一冊の書籍が存在することによって、若手研究者がイベント分析の潜在性と課題をあらかじめ十分に認識したうえで、そのプロジェクトを考案し実施していくことができるようになるからである。現状では、イベント分析を用いた様々な論文や書籍を読みながら、その方法論的な側面を学んでいくのが現実的な学習方式にならざるを得ない。イベント分析法に特化した研究書ももちろん存在するが、エクセルなどのスプレッドシートやリレーショナル・データベースと格闘し、統計ソフトを使ってデータを加工し図表を作成し必要な統計モデルを走らせるなど、実際に手を動かして体験しながら習得できるようにはなっていない。イベント分析がスキルレベルでもかなり高いものを求めることを考えれば、スキルを伝授するという側面も含めた教育方法こそ、イベント分析を広めていくという見地からは決定的に重要になる。スキル向上という実践的な側面を含めた書籍を生み出すことをひとつの目標として、この授業を実施したいと考えている。この観点から、学生さんからの意見・コメント・提案などをいただけると大変ありがたい2。
成績評価方法については以下「今回政治イベント分析をとりあげる狙い」も参照してほしい。↩︎
当初は、授業の前に資料(html)を配布し読んでもらい、そこに掲載する課題に事前に取り組んでもらい、それを授業で解いていく形式を想定していた。しかし、今回はおそらく間に合わないので、授業で資料を配布し、それをもとに解説し、その資料や解説についてフィードバックを提出してもらう形式としたい。もちろん、リーディングがある回やRを用いた問題に取り組む回も用意する予定である。また、配布資料であるhtmlファイルであるが、フィードバックを可能な限り反映させていくつもりである。このため、常時更新されていくことも念頭に置いてほしい。↩︎